2026/08/28 夢日記『紫色の皿』

『紫色の皿』

居酒屋には、見覚えのある顔が十人くらい集まっていた。

中学の頃の同級生たちだった。

卒業してからまともに会っていない奴もいたし、たまに名前だけ聞く奴もいた。

そんな中に鮫ちゃんもいた。

鮫ちゃんは中学の頃、サッカー部だった。

足が速くて、よく日に焼けていて、休み時間になるといつも教室でふざけていた。

大人になった鮫ちゃんは昔より少し太っていた。

でも笑い方は変わっていなかった。

酒を飲みながら、昔の先生の話をしたり、誰が結婚したとか、誰が地元を出たとか、そんなことを話した。

ずいぶん長いこと会っていなかったのに、不思議と話すことはあった。

途中、鮫ちゃんが別の男に、

「悪いんだけど、金貸してくれない?」

と言っているのが聞こえた。

「いくら?」

「十万」

「無理無理」

男は笑って断った。

鮫ちゃんも笑っていた。

だから僕も、たいして気にしなかった。

夜中の一時を過ぎた頃から、一人、また一人と帰っていった。

気づけば店内もだいぶ静かになっていた。

鮫ちゃんはテーブルに突っ伏して寝ていた。

「鮫ちゃん、起きろよ」

肩を揺すると、鮫ちゃんはゆっくり顔を上げた。

「今、何時?」

眠そうな顔だった。

僕はふざけて言った。

「五時」

鮫ちゃんの目が一気に開いた。

「え?」

「朝の五時」

「なんで起こしてくれなかったんだよ!」

突然、怒鳴った。

「いや、嘘だよ。一時過ぎ」

けれど、鮫ちゃんは聞いていなかった。

椅子を蹴るように立ち上がると、そのまま店を飛び出した。

「鮫ちゃん!」

僕も慌てて追いかけた。

速かった。

さすが元サッカー部だった。

僕は数十メートルで置いていかれた。

角を二つ曲がったところで、完全に姿を見失った。

夜中の街を一人で歩く。

シャッターの閉まった店。

黄色い街灯。

遠くでタクシーが走っていく。

どこへ行ったんだ。

そう思っていると、少し先から怒鳴り声が聞こえた。

「ふざけんなよ!」

鮫ちゃんの声だった。

走っていくと、中年の男と鮫ちゃんが向かい合っていた。

どうやら、走っていた鮫ちゃんが男にぶつかったらしい。

「謝れって言ってんだろ!」

「謝っただろ!」

僕は二人の間に入った。

「まあまあ、すみません。こいつ酔ってるんで」

しばらく頭を下げていると、中年の男は舌打ちをして去っていった。

鮫ちゃんはまだ息を切らしていた。

「大丈夫?」

僕が聞くと、鮫ちゃんは僕の腕をつかんだ。

「金」

「え?」

「十万貸してくれない?」

さっき居酒屋で聞いた話を思い出した。

「何に使うの?」

「頼むよ」

「いや、だから何に」

「頼むって。本当に。あとで絶対返すから」

鮫ちゃんは何度も頭を下げた。

あまりにも必死だった。

僕は少し迷った。

それから近くのATMで十万円を下ろした。

鮫ちゃんに渡すと、彼は札を数えることもせず、そのままポケットに入れた。

「ありがとう」

そしてまた走り出した。

「ちょっと待てって」

今度は僕も必死についていく。

鮫ちゃんが向かったのは、駅前のデパートだった。

当然、営業時間は終わっている。

正面入口も閉まっていた。

けれど鮫ちゃんは建物の横へ回った。

そこには地下へ続く階段があった。

「ここ、夜中もやってるんだよ」

鮫ちゃんが言った。

そんな店があるなんて知らなかった。

階段を降りる。

地下には小さな店が一軒だけ明かりをつけていた。

何を売っている店なのか、よく分からない。

店先のガラスケースに食器が並んでいた。

皿。

カップ。

花瓶。

どれも少し変わった形をしている。

鮫ちゃんが突然立ち止まった。

「これだ!」

指差した先に、一枚の皿があった。

紫色の皿だった。

丸くも四角くもない。

縁が歪んでいて、何かが溶けかけたような形をしていた。

値札を見る。

十万円。

僕はもう一度皿を見た。

こんなものが十万円もするのか。

鮫ちゃんは迷わなかった。

店員を呼んで、さっき僕が渡した金をそのまま差し出した。

皿は白い箱に入れられた。

店を出ると、鮫ちゃんはその箱を両手で大事そうに抱えていた。

デパートの階段を上る。

「ありがとう」

鮫ちゃんが言った。

「本当にありがとう」

「助かったよ」

鮫ちゃんは感謝の言葉を何度か繰り返した。

「別にいいけど」

その食器の何がそんなに大事なのか聞きたいと思った。

でも、聞かなかった。

地上へ出る。

街はまだ真夜中だった。

鮫ちゃんは箱を抱えたまま、しばらく空を見ていた。

僕も隣で立っていた。

酔いはもう、だいぶ醒めていた。

紫色の皿が十万円もする理由や、鮫ちゃんがそこまで急いでいた理由は結局、何ひとつ分からなかった。

ただ、鮫ちゃんがあの皿を手に入れた瞬間は、何かが間に合ったような顔をしていた。

これにて起床。

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